*とんでもない妄想です。パロディです。
原作の流れは汲みたいと思っているのですが、人物設定等、色々無視しております。
すみません。
そういったものが苦手な方は…どうかご注意くださいませ。
黒く塗りつぶされた世界に、音が生まれ、死んでいく。
空気が流れる音色。
原子が組み合わさり、分子を成して、結合し、決壊し、大気が形成されて……。
それを、当たり前のように掻き分けていく。
「おい!奈々!しっかりしろ!!」
天を流れるる白き川は、いずれ途切れ、霧散するも、永遠を約束されし理の呪縛にまた生まれ出ずるのだ。
地を駆け、這う者が滅したとしても、天と地の盟約は果たされ続ける。
「まだだ!まだ、お前は……!」
意思を持って歩む者が存在し続ける限り、循環の中に破棄される濁りもまた、永遠を得るのだろう。
「お前は、俺が……!!」
だから…。
「あなた…」
だから、この身に滞る呪も、言祝も、願いも、怨みも、希望も、絶望も、禍根さえも。
全て。
「あの子を……ツナを、お願い、ね」
受け継がれるのだ。
これは…慈愛などではない。
愛憎が生む、終末への、切なる願い。
綱吉。
あなたは。
この世界を愛せるだろうか。
閃姫先規戦記 ―Un
imperatore di
spada―
「おいおい、帰って早々この仕打ちはないだろう」
「致し方ございません。我々も勅命に従っているだけですので」
どうかご容赦くださいませ。
冷静で抑揚のない声音が、音もなくスッと頭を下げた。
常々思うのだが、目というものは大事だ。
見る、という行為はモノを認識するために重要なウエイトを占めるファクターの一つであるし…それに…。
東洋では、目は口ほどにものを言う、というらしい。
なんと的確な表現だろうか。
瞳の語る感情は言葉より雄弁に真意を訴えるものだ。
コミュニケーションを取る上で、相手の心の動きを読み取る、というのは難しくもあり、肝心な点でもある。
そのために、相手の目を見る、というのは非常に有効な手段なわけだが……。
目元を覆うマスクに阻まれて、この女共の感情は一向に見えてこない。
(どいつもこいつも同じ顔、形、色だしなぁ…)
気味が悪くて仕方がないが、深く関わりたいわけでもないのであえて何も言わずにいる。
チェルベッロ機関。
九代目直属の機関という説明をされたところで……完全に信を置けるわけではない。
(まあ、俺たちにとって害が無いうちは……泳がせておくまでだがな)
ふと目を細めながら、眼前に居並ぶ三人の女の脇をすり抜ける。
「詳細は、追って書面にてご連絡いたします」
「そうしてくれ」
公平な立場だかなんだか知らんが、九代目の命とあっては背くわけにもいかない。
それに……。
「略歴を見るだけでも……面白そうなガキだしな」
合間見えるのが、楽しみでは、あるのだ。
この俺に、勝負を挑む、などと。
「スペルビ・スクアーロ、だったか?」
威勢のいいことだ。
自然と口端が上がる。
邸内を闊歩しながら、男は肩に羽織っていた上着に腕を通した。
胸の紋章には己が束ねる組織の名が刻み込まれている。
VARIA
ボンゴレ最強の暗殺部隊を束ねる男の名はテュール。
剣帝と称されるほどの剣の使い手である彼は、先ほど告げられた三日後に控える死闘と、幼い挑戦者を思って薄く笑みを敷いていた。
「てゅーる!」
「おおっ!?」
突然背に振ってきた重みで、テュールは思わず前のめりに姿勢を崩してしまった。
「てゅーる!おかえり!」
「おー、なんだツナか。おどかすなよー」
「うわーやめろー」
腕を回し掴み上げたのは、手足をばたつかせて笑う子供だった。
ふわふわと跳ねる茶色の髪を風に遊ばせるその子供は、大きな瞳を輝かせて俺を見つめる。
隙を見て脇に手を滑り込ませ、抱え上げれば、くすぐったいのか身を捩って。
ぐっと腕に掛かる重みに、しみじみと実感する。
「高い高い、をするにはちょーっと大きくなっちまったなぁ、ツナ」
「ツナ、おっきい?でもてゅーるよりちいさいよ?」
「そりゃーお前…その年で越されちゃたまんねえよ」
ははは、と笑いを零せば、釣られたのか、ツナもなんとなしに笑い出した。
この子供はよく笑う。
……いいことだ。
幼少期からマフィアという殺伐とした世界に置かれ、いつまでこうして笑っていてくれるのだろうかという懸念は、いつまでたっても消えないのだが。
五歳。
多感な時期である。
そして……この子が俺の元に預けられてもう三年が経とうとしている。
「おいおい、俺は空気か?」
物思いに耽ろうとしたテュールを、背後に突っ立っていた野郎が引き戻してしまった。
「ああ悪いな。無視してたんだが居なくならなかったのか。残念」
「ずいぶんご挨拶だな。わざわざ出向いてツナの相手してやってたってのによー」
「わかってる、感謝してるって。おら」
「おっと」
皺の入った白衣を纏う無精ひげの男に向かって、テュールは腰に下げていた荷物を投げた。
「酒と女をこよなく愛するお医者様に施しだ。それでいいだろ?」
「えー?女じゃねえの?」
「自分で探せ、自分で」
ツナを抱えなおしたテュールは呆れたように嘆息した。
タポン、と音を発する液体を詰めた瓶をまじまじと見つめながら、いい年した男が唇を尖らせている。
張られたラベルは、希少価値のあるビンテージを示しているというのに。
この女好きめ。
ツナに悪い影響を与えそうだから、あまり近づけたくないのが正直なところなのだが。
「じゃーな」
「おう。今度は女紹介しろよー」
「言ってろ」
「またねーシャマルー!」
「お前もいずれ、俺にいい女紹介するんだぞー」
「?」
「お前!黙れ!」
あんなのでも、実力は確かだ。
信用、というまでは至らないかもしれないが、安心してツナを預けられる人間の一人であることも、確か。
……存在が教育上よろしくないのが難点だ。
ひらひらと手を振るシャマルに背を向ける。
まったく、と若干憤慨しながら足早に、テュールはその場を後にした。
「大体、九代目か家光がいりゃあいつに頼む必要もなかったってのに…」
ヴァリアーの本部である屋敷に足を踏み入れれば、すれ違う部下達が次々に軽く頭を下げてくる。
両手を塞がれているために顎で応答していると、ツナがくいっと上着をつかんで引いた。
「じーじ、しごと?」
「ん?ああ。じーじも父さんも仕事だってよ。俺はしばらくお休み、だったんだけどなぁ…」
厄介なことに、挑戦状が叩きつけられてしまい……三日後に相手を、と命じられてしまった。
ジャッジとしてチェルベッロが出向くというオマケ付きで。
面白そうではあるが、全然嬉しくない。
予定が狂わされてしまった、と嘆きながら息を吐けば、抱き上げていたツナが俺の両頬を挟み込んだ。
その、小さな掌で。
「てゅーる!がんば!」
「……お前…なにその励まし…」
がんば、て……。
「ツナねーお絵かきしたんだよーじーじと、シャマルと、てゅーるの絵ー」
そして話題はぶっとんだ。
…まあ、子供なんてこんなもんだ。
「父さんはどうした」
「しらなーい!顔わかんないー!」
家光が聞いたら、きっと泣くだろうな。
よし、今度聞かせてやろう。大いに嘆けばいいのだあんな奴。
「でねー!クッキーたべた!」
「うまかったか?」
「うん。白いのとー黒いのとーしましまだった」
「よかったな」
「チョコと、あめももらったよ!キャラメルも!」
「お前…甘いものばっかりだな。飯もちゃんと食ったのか?」
「食べたよ!にんじんきらい!」
「残したのか。だめだろ」
「ううん。ぜんぶ食べたらてゅーるが早くかえってくるってシャマルがいうから、食べたよ!」
「………」
……おい、なんだこの生き物…!
「でもねーてゅーるかえってくるの、おそかった」
いやいやいや、それは俺のせいではない。
無責任な嘘つきやがって藪医者め!
ああ…でもなぁ……。
純粋な瞳がふと曇ってしまうのを見ると…とてもとても、居たたまれない。
「……悪かった。ちょっと仕事が増えてなぁ……」
「んーん。いいよ。てゅーるいそがしいの、しかたないもん」
こてん、と頭を俺の肩に預けながら、ツナが静かに目を伏せる。
ものわかりのいい子供なのだ。
だがそれは同時に、感情を押し殺してしまう面を持っている、ということでもある。
物心つく前に母親を亡くしたこの子は、ボンゴレの門外顧問の実子であり、初代ドン・ボンゴレの血筋であることも影響して、大切に育てられてきた。
そしてそれ以上に…その身に巣食う宿命のために。
大切に大切に。
しかし、それは固定された人間によって、ではなかった。
諸事情により俺に預けられることとなったが、俺とて、いつも傍にいられるわけではない。
なにより、任務の絶えない父親の不在は特に効果があったのか、ツナは徐々に孤独を飼うようになってしまい…。
周囲へやたらと気を使う子に育ってしまった。
関わりの深い俺や九代目、よく会うシャマルにはまだ甘えを見せるようなのだが……。
「ツナ」
「ん?」
「三日後、仕事なんだけどな」
「……うん」
「お前も一緒に来るか?終わったらどっか連れてってやるから」
「…!ほんと!?じゃまじゃない?」
「邪魔じゃねえよ。現場に連れてくわけにはいかないがな。高級ホテルに泊まれるぞー」
「おとまり!?やったー!」
「遊びにも連れてってやるぞ。どこがいい?」
「えっとね、えっとね!にほん!」
「そうか日本かー……って、え!?日本!?なんで!?」
「おっきいゆうえんちがあるってテレビが言ってた!」
「そんなの近場にもあるだろ!?なんで日本なんだよ!」
「ねずみー!おっきいねずみがいるのー!」
「はぁ!?まさか、夢の国か!?だったらフランスのが近いだろ!パリに行こうぜパリに!」
「いやー!にほんー!!」
「ええええええええ!?」
駄々をこねるツナをなだめる俺。
ヴァリアー内でもはや日常と化してしまった光景に、居合わせた部下達が忍び笑いを漏らしている。
暗殺部隊だというのに、殺伐とした空気がないのは……ツナにとっては、いいことだ。
まだ、俺がこの子を守ってやらなければならない。
剣帝、と名乗る者の義務、とも言えるのだが。
それだけではないのだと、声を大にして言い切る自信がある。
……この子の母親を、父親を、その末路を、知っているから。
同じ道を歩まぬように。
そして……いずれ来る、苦痛の瞬間が、少しでも遠のくように。
痛みを、孕まないように。
今は、まだ。
俺が、契約者である限り。この子のために、在る限り。
常に心の中心を占める思慕と万感を秘めたまま、テュールは忍ぶように目を伏せた。
やってしまいました……。テュール捏造……。
彼がいないと話が始まらないので…耐え切れずにやってしまいました…!すみません…!
あえて姿形の描写は避けてみました。
本編で彼が出てくることがあれば…よろこんで組み込みたいと思います。
その前に…口調を捏造しすぎましたが…orz
ママンも…お、お亡くなりにしてしまってすみません…!奈々ママン…!
ツナがイタリアにいるという時点でおかしいですが…激しい妄想の産物ということでお許しいただければ、と思います…!
というわけで、続きます!
あ、スクツナです!ちゃんと、スクツナです…!今回名前しか出てませんけれど、ちゃんとスクツナ、ですので…!!(ちゃんと?)